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摘出した膀胱結石

成分は99%炭酸カルシウム。

尿路結石/高カルシウム尿症斜頸

​④尿路結石・高カルシウム尿症

尿路結石症は泌尿器系に結石が存在する疾病を指す。うさぎは膀胱結石、尿道結石、腎結石、そして尿管結石の何れかと組み合わせて発症することがある。うさぎに於ける尿路結石症の原因はまだよく解明されていないが、栄養、解剖、生理機能そして希にだが感染など幾つかの要因が含まれている。

高カルシウム尿症はペット用のうさぎに頻繁に見られ、臨床症状はこれと類似している。羅患したうさぎは膀胱内に大量のカルシウムの「砂」が認められる。うさぎは独特なカルシウム代謝を行っており、カルシウムの腸管吸収は、直接的にビタミンDに依存しているわけではない。カルシウムの尿中排泄率は、多くの哺乳類では2%以下であるのに対して、うさぎの場合は45〜60%にも達する。

カルシウム含量の多い食餌をとると、カルシウムの尿中排泄量はそれに比例して増加する。尿結石症あるいは高カルシウム尿症のうさぎは、肥満だったり、ペレットやアルファルファが自由に食べられるようになっていたり、運動が制限されている個体に多く発症する傾向がある.また、それらのうさぎはしばしばビタミンやミネラル分を食餌の補助として与えられていた経歴を持っていることがある。

●臨床症状

尿結石症の臨床症状は、元気消失、食欲不振、体重減少、嗜眠傾向、血尿、無尿、排尿時の力み(排尿困難),背弯姿勢,歯ぎしり,そして会陰部の尿やけである。またこの症状から呼吸器症状や神経症状と誤認されることもあり、また病状の程度によっては不定期に且つ突発的に見られることがある。高カルシウム尿症のうさぎは通常濁ったクリーム色の尿を呈する。しかし時として排泄された尿は、ただわずかに濁っているように見えることもあるが、膀胱の圧迫排尿により大量の練り粉のような尿がでてくる。

練り粉のような腫瘤は腹部の尾方でしばしば触知する事ができ、尿道閉塞のある場合は腫大した膀胱が触知出来る。水尿管症や水腎症がある場合は腫大した腎臓や尿管が触知されるはずである。非常に希だが骨盤の入口付近で楔状になった大きな膀胱結石により、腸が遮断された雌うさぎが報告されている。

◎診断

確定診断はレントゲン検査だけで行ってはいけない。単なる高カルシウム尿症との鑑別を確実に行わなければ治療方針が定まらない。明らかに大きな結石は触診により、また、小粒の結石は超音波画像診断装置で診断が可能である。小粒状の結石や同じデンシティを持つ物質の存在を膀胱の一部や完全に拡張した膀胱内に見ることが出来る。レントゲン検査において少量の小粒が膀胱内に見られることはよくあるが、これは正常なうさぎにはよく見られる炭酸カルシウムの結晶が存在しているからである。

最終的な診断には腎臓、尿道、あるいは尿管に存在する結石の同定が必要となるだろう。膀胱が拡大していたり、レントゲンが拡散し像が不鮮明だった場合、小粒の結石を検出するためには超音波画像検査を実施する。水腎症を併発した多発性腎嚢胞は発見を困難にするが、超音波画像検査を用いることによりこの2つを区別することが出来る。

腎結石が存在するときは、腎機能の評価のために静脈系腎盂造影を実施する。尿検査を実施するために、自然排尿時あるいは膀胱穿刺を施して尿を採取する。結晶尿の分析の際に大量のシュウ酸カルシウム結晶を見ることがあるが、これは一般的でありリン酸アンモニウム、炭酸カルシウムそして一水和性の結晶もまた頻繁に観察される。蛋白尿と血尿は付随的に見られる症状としては一般的である。もし細胞学的検査に於いて細菌が見つかったのなら、膀胱穿刺により尿を採取し培養を行うことが望ましい。Escherichia coli 及びPseudomonas speciesは膀胱炎の原因菌として知られている。CBC及び生化学検査の結果は腎機能や予後の判断に有効である。

レントゲンのラテラル像

白く抜けているのが膀胱結石だが、高カルシウム尿症でも同様所見となるので触診は必ず必要となる。

治療

外科的に治療を行うか、内科的に行うかの判断は慎重に行いたい。排尿困難などの重篤な臨床症状がある場合は、外科的に処置を行うことが必要であるが、そうでない場合は内科的に治療を行うことは可能である。

1. 内科的治療

食事の管理は膀胱結石の形成や高カルシウム尿症の予防にも通じるところである。治療を目的とするのなら野菜を中心に考えていく必要があります、ペレットの給餌は完全に中止し、低下カルシウム食に切り替える。

カルシウム含量の少ない野菜類としては、根菜類やブロッコリー(花と茎)、クレソン、メキャベツ、セロリの葉、サラダ菜、つるな、にんじん、白菜、みつば等が挙げられる。もしビタミンやミネラル類を添加している場合はこれも中止する。特にうさぎ用の副食として硬質のミネラル補助食品などが市販されていますが、これを与えると高カルシウム尿症や、尿路結石症などを引き起こし易くなる。

実際、この食事管理だけでかなりの個体の膀胱結石は溶けてしまう。食事を改善後1ヶ月で再度レントゲン撮影により結石を確認する。もし結石の大きさが変化していなかったり、1ヶ月の間に問題となるような臨床症状が見られる場合は外科的に処置をすべきである。

​膀胱結石治癒後も食事は元に戻さず、そのまま野菜中心の食事にしておく必要がある。もっともカルシウム含有量の高い野菜などは与えてもよい。含水量の多い食事とともに与えれば、臨床上大きな問題となることはない。

2. 外科的治療

膀胱切開は膀胱結石症の時に選択される治療である。膀胱頸部は弛緩し伸長して骨盤腔内に入り込んでいるために、その処置は困難であるかも知れない。小粒の結石を尿管から取り除くとき、力任せに行うと尿管頸部あるいは基始部を傷害する可能性があるので、外科用のスプーンを用いてその部位から小粒の結石を回収する。フラッシングおよび陰圧の低い吸引器を用いることにより、顆粒状の基質の回収がしやすくなる。結石の分析を依頼し、そして膀胱壁のスワブを用いて細菌培養を行う。手術前後の支持療法として経静脈点滴による利尿と全身的な抗生剤の投与を行う。

その後は再発の有無を確認するレントゲンによる監視が必要である。腎盂内の結石が閉塞や水腎症を引き起こしている場合、腎摘出が必要になる可能性がある。体外のショック波による砕石術はうさぎの腎臓に実験的に行われているが、臨床応用における報告はまだない。また片側性、両側性の腎結石は予後に注意する。

ある資料では「1日の絶食により尿が酸性となり沈殿物が消失する」というものもあったが、草食動物であるうさぎの絶食は好ましい物ではなく治療効果も期待できない。

​高カルシウム尿症あるいは腎臓、尿管の非閉塞性結石が確定された場合は、非観血的な方法を考慮する。静脈内または皮下の液剤の投与を行うときは、尿管の洗浄処置を増加させる必要がある。2-4日の間は手で膀胱を圧迫して結晶やカルシウムの「砂」の排泄を促すが、この間正常な排泄はしないかも知れない。このテクニックは犬や猫で用いられる圧迫排尿の手技と同様であり、細な顆粒や滑面の膀胱結石の除去に用いられる。

これらの処置を行うにはうさぎに麻酔をかけなければならない。うさぎの脊椎が垂直になるように正立させ、膀胱に一定の圧力をかける、ジアゼパムの麻酔前投与により、尿道の筋肉を弛緩させることができる。血尿は圧迫排尿後1〜2日間は起こる可能性がある。

予防

食餌の変更は治療や予防に関して重要なことです。カルシウム含量の少ない食餌を与えることで、直接的に血清カルシウム濃度と尿中のカルシウム量の減少を行うことも大切です。しかしペレットの給餌を中止し、大量の野菜を与えることで十分な予防効果を得ることが可能です。過剰とも言える水分を摂取することで尿量は増加しますが、結石ができるほどの高カルシウムの状態にはなりません。いくらカルシウムが低い食事を選択して与えても、排尿の間隔が長いとどうしても膀胱結石あるいは高カルシウム尿症の発生の危険は伴うことになります。

成長に必要なカルシウム量は最大0.22g/100gであるのに対し、おおかたの市販ペレットは0.90〜1.60g/100gもカルシウムを含んでいたという報告があります。尿路結石を起こすうさぎの多くは肥満しているという理由から、摂取カロリーを減少させて肥満を解消させるべきでしょう。減量をさせる目的で運動をさせるのは意味はありません。なぜならうさぎは運動を好んで行う動物ではないからです。まして肥満しているときは疲れやすくすぐに動くのをやめてしまうでしょう。肥満の原因の殆どは固形飼料の多給による場合である可能性が高く、その判断は雌のうさぎは肉垂の張り具合で肥満の確認は可能ですが、雄の場合は外見上の判断は難しいかも知れません。 

「酸性化剤は効果的ではない」というのはうさぎは草食動物であるため,もともと尿はアルカリ性なのです。(正常なpHは7.6〜8.8)クエン酸カルシウムをシュウ酸カルシウム結晶の治療に用いることがあるが、これは尿中のカルシウムイオンの濃縮を減少させるためである。膀胱疾患の既往症を持つ場合はペレットの給餌を中止することが望ましい。日本で市販されている干し草にはアルファルファが既に含まれているものが多く、あえてペレットを添加する意味は少ない。ただし、6ヶ月齢未満のうさぎや妊娠中、授乳中のうさぎに関してはこの限りではありませんが、ペレットを与えるくらいならアルファルファの牧草をペレット代わりに添加する方が現実的です。なぜなら歯を殆ど使わないペレットよりも、まだ咀嚼が必要な干し草の方が正常な咬合の面からも良いからです。

Special Thanks!
症例報告中の病理所見および病理写真提供:山極病理研究所/株式会社ランス/IDEXX Lab.

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